コラム
娘に血友病保因者であることを伝えたきっかけは?その時の反応は?その後のサポートは?
今回はお父様が血友病(薬害エイズ被害者でHIV感染者)で娘さんが血友病保因者というご家庭が、いつどのように娘さんに「自身が血友病保因者である」という事実を伝えたのかを取材しました。娘さんに血友病保因者であることをなかなか伝えられないご両親も少なからずいらっしゃるので、そのような方々の参考になれば嬉しく思います。
―今娘さんは何歳ですか?血友病保因者であることを伝えるタイミングはどのように決められましたか?
妻:
娘は現在13歳です。中学2年生ですね。娘に血友病保因者であることを伝えたのは、今から3年前の10歳の時になります。いつかは伝えようと思っていたのですが、いつが良いのかわからず夫の主治医に相談したところ、「早ければ早いほどいい」と言われたので、それからすぐに伝えました。
もちろんそれがきっかけと言えばきっかけだったのですが、夫は家で自己注射を打っていて娘もそれを見ているので、年齢的に不思議に思い始めるのではないかという心配もありました。事実を伝えずはぐらかすようなこともしたくなかったですし、隠し続けて後々話が変にこじれてしまうのも不本意なので、いっそのこと全て話してしまった方が良いのではと思っていた時期でもありました。もう少し後になると思春期になってしまうので、そうなるときちんと向かい合って対話することも難しくなりますからね。
―いざ伝える時は、ご両親とも緊張しましたか?具体的にどのように切り出しましたか?
夫:
それはもう、緊張しましたね。もともと緊張しやすいタイプなので、数日前から心構えが要りました。どういうわけか娘の誕生日に言おうと夫婦で決めたのです。ちょうどその頃、娘が小学校で二分の一成人式をやったこともあって、10歳というのは一つの節目かな、と。それで誕生日というタイミングにしたのだと思います。娘がお風呂から出たら言おう!と夫婦で決めました。
まずは、私が打っている注射の話からしました。「お父さんは注射を打っているでしょ。これは血液製剤っていう薬なんだよ。どうしてかいうと、お父さんは血友病っていう病気だからなんだよ」というように、身近なところから話し始めました。それから、血友病は遺伝する病気だから、娘は血友病保因者であるということ。そして保因者であるということが、将来的にどのような影響があるかということを、私が知っている範囲で全て伝えました。
妻:
娘は女子校に通っているせいもあって、結婚や出産を自分ごととして考えるにはまだ早いような印象でした。将来的に娘が出産することになった時に起こり得ることを話しても、おそらくピンときてなかったのでしょう。しかも、それが誕生日プレゼントを渡す前だったので、意識は完全にそっちにいっていましたね(笑)。わかった、理解した、とは言っていましたが、その真意のほどはわかりません。
ただ、私がこれだけはと思って伝えたのは、血友病保因者の女性が子供を持つことが悲しいことではないということです。仮に生まれてくるのが男の子で血友病であったとしても、大変さはあるかもしれないけれど、それは決して不幸ではない、と。義母は血友病の夫を産んで育てているわけですが、決して辛そうな様子はありません。「おばあちゃんは楽しそうにしているでしょ、パパを産んで幸せそうだよね」と身近なところからイメージさせました。娘の反応はというと、びっくりするわけでもなく淡々と聞いていました。もともと楽観的なタイプなので、その時はあまり深く考えなかったみたいです。あれから3年経ったので、今の方が理解が深まっていると思いますね。
―血友病保因者である娘さんに対して、今後親としてどのようなサポートを考えていらっしゃいますか?
妻:
実はあまり真剣に考えたことがなかったというのは正直なところです。男性とのお付き合いもまだないので、結婚や出産は遠い将来の話だと思っていましたが、血友病保因者の女性は日頃から気をつけることがあると(この取材で)知ったので、あらためてきちんとサポートの重要性を認識しました。月経の時の出血量については、これまで気にしたこともなかったので、少し気にしてみようかなと思います。また、万が一怪我や病気などで手術となった時も注意が必要ですよね。
そして、娘にやがて訪れる結婚を前提としたお付き合いに際しても、きっと親からアドバイスできることはたくさんあるのだと思います。パートナーへの伝達をどうするかという問題は必ずありますよね。
夫:
親がどのくらいまで介入していいのか線引きが難しいですが、もし結婚を考えるようなお付き合いになったら、その時はもう伝えた方がいいと思います。その先の相手の両親の伝達という問題もありますからね。
―伝達という意味において、お二人の結婚までの道のりはどのようなものでしたか?
妻:
夫が血友病でHIV感染者ということは付き合う前から知っていたのです。というのも、私がHIV感染者の支援団体でボランティア活動をしておりまして、そこで知り合ったので夫が薬害HIV感染被害患者であることは最初から知るところとなりました。しかし、それが2人の関係構築に影響したかというとそうではなく、距離が縮まっていったプロセスもごく自然なものだったと思います。内面的な部分に惹かれたので、病気であってもなくても結婚したでしょう。付き合っている時はただただ楽しかったです。
付き合いが進んで結婚も考えるようになった時に、まず母に打ち明けました。気にするタイプではないと思ったのですが、意外とびっくりしたようです。反対すらしていたかもしれません。しかし、付き合いの中で夫が家にも遊びに来るようになって、母との距離も縮まるに連れて何も言わなくなりました。きっと夫の人間性を認めるようになったからなのだと思います。父と夫も知る仲になって親交を深めていったのですが、どういうわけか父にはしばらくは言いませんでした。しかし、いよいよ結婚することになり父にも話すことになりました。いざ話したら、驚くほどあっさりとしていましたね。母から聞いて知っていたようでもあるし、あるいは本当に初めて聞いた反応がそれだったのかもしれませんし。いずれにしても、結婚前には私の両親にきちんと伝えました。
―血友病保因者の女性に対して、行政や医療機関、支援団体などからどのようなサポートがあると嬉しいですか?
妻:
具体的なサポート以前に、娘にこの先起こる問題を想定できないので、まずは成長と共に起こり得る問題を一通り教えて欲しいというのが本音です。月経の時の出血過多や出産時のリスクのような問題から、お付き合いや結婚に際しての相手やそのご両親への伝達の問題まで、体のことだけではなく精神面でも様々な問題が起こるのだと思います。しかし、それらに対する指南や正しい知識がないと、適切な対応も取れません。まずは起こり得る問題を洗い出した上で、その時々の適切な対応を教えていただけたら本当に助かります。
―血友病保因者の娘さんを持つご両親にアドバイスやメッセージなどはありますか?
妻:
私たちは娘が10歳の時に伝えましたが、やはり早い時期に伝えて良かったと思っています。もう少し年齢が上になると反抗期や思春期に差し掛かってしまうので、ちょうど良いタイミングだったのかなとも思いますが、時期の問題よりも日頃からの親子のコミュニケーションの方が重要なのではないかとも思っています。
私は幼児教育の研究をしているのですが、親子関係において何でも話し合える仲であることはとても良いことだと思っています。もちろん、子どもにはそれぞれ個性があるので、親子によって付き合い方や伝達方法は様々あるかと思いますが、お互いのことを包み隠さず打ち明けることができ、心を開いてコミュニケーションを取ることができる関係性があると、いざ大事な話をする時の受け止め方が全然違ってきます。
娘にとっては初めて聞く話でびっくりもしたと思うのですが、私たちにはそのような下地があったからこそ、娘は事実を受け止めることができたのだと思います。
いつ、どのような状況で、どんな風に切り出すかという問題もありますが、まずは親子間の良好な関係を構築しておくことが何よりも大切なのではないでしょうか。