コラム
血友病保因者ということで何かをあきらめたことはない~保因者女性として伝えたいこと
血友病家系女性・保因者のための情報サイト「生きる力を育てましょう」を運営する社会福祉法人はばたき福祉事業団です。
今日は当事業団で長年相談員として活動をしている柿沼が血友病保因者であるZippoさんにお話を伺い、保因者としての疑問や葛藤などを率直に語ってもらいました。
社会福祉法人 はばたき福祉事業団とは~
東京HIV訴訟和解成立後、薬害エイズ被害者の救済事業を被害者自らが推進していくことを目的に、1997(平成9)年4月1日に任意財団として設立され、その後2006(平成18年)年8月28日、厚生労働省より社会福祉法人として認可を受ける。現在はHIV感染者や血友病患者等の身体障害者の更生相談事業や感染者の遺族に対する相談・支援や調査研究、教育啓発等の公益事業活動などを行っている。
家族との共有は、その後に人生設計にも影響
父は血友病患者。家族からの説明もなく、さほど疑問を持たずに受け入れていた幼少期
柿沼:Zippoちゃんもすっかり大きくなったわね…。私たちの付き合いも20年になるかしら。
Zippo:35歳になります。私の母が「はばたき」の相談員をやっていた関係で、母を通じての付き合いから始まりましたね。
柿沼:そう、お母様とは週に2~3回顔を合わせていたのよ。ところで、Zippoちゃんは小さい頃から血友病について知っていたの?
Zippo:父が患者だったにも関わらず、血友病という病名もどんな病気かも知らなかったのです。いまでこそ父は血友病患者だったとはっきり言えるのですが、幼少期は「病弱な人なんだな」って思ってたくらいで…。母はやたらと元気なんですけどね(笑)。親族にももう一人血友病患者がいましたので、詳しいことはよくわからないけど「世の中病弱な人はいるもんだ」って程度の理解でした。でも9歳くらいの時に父は入院することになって、結局10歳の時に他界してしまうのですが、その時はさすがに命に係わる重大な病気だったんだってことは理解しましたね。父は薬害エイズの被害者でもあったのですが、入院していた病棟がその専門だったので同じ病気の方がたくさんいましたし、ちょうど薬害エイズの裁判の渦中だったのでバタバタもしていました。よくよく考えてみると特別な環境だったと思うのですが、当時はそれが自分にとっての日常でした。
エイズと血友病の違いを知ったのは中学に入ってから。学校で「遺伝」を学んでから少しずつ意識するように
Zippo:血友病という病気やエイズについての理解が私にはないまま、父は他界してしまったわけですが、やがて中学生になり社会問題としてのエイズの知識や授業の中で遺伝の知識などを持つようになると「あっ!」っていろいろと気付くようになりました。薬害エイズ事件のこと、血友病とエイズはまったく関連性のない病気だということ、そして何より血友病は遺伝することなどいろいろと知るところになりました。
柿沼:その時、Zippoちゃんはお母さんにいろいろと聞いてみたの?
Zippo:聞かなかったと思います。その時の私の疑問としては「自分は保因者なの?そうじゃないの?」という一点だけで、ひたすら自分でXYの図式を書いてあれこれ可能性を考えてましたね。本当に“素朴な疑問”レベルですね。その時はまだ十代で、結婚や出産はまだ遠い先の話だったので、もやもやしながらもさほど気にせずにそのまま過ごしていたと思います。
血友病を取り巻く事実を家族と共有することで、自分の置かれている状況を受け止める
柿沼:お母様が相談員をやっているくらいだから当然のようにご家族も理解しているとばかり思っていたので、今Zippoちゃんから話を聞いてちょっと意外だったわ。中学の時になんとなくいろいろ繋がるようになったとはいえ、どこかの段階できちんと正しく理解すべき問題だと思うの。ご家族の方針や考え方にもよるけれど、身内に患者あるいは保因者がいるということは、子どもに遺伝している可能性があるということだから、やはり家族の間で早い段階で問題を共有するのが理想なのかもしれないわね。自分で情報を寄せ集めるにしても中学生くらいでは限界があるし、そこで正しい知識を得られるのかわからない。大切なのは正しい理解と、血友病というものに対して当事者意識を持つことじゃないかしら。
パートナーとも問題をシェア。血友病への正しい理解を持ったうえで関係を構築
保因者と自覚して海外へ移住。海外にもネットワークがあるという安心
柿沼:Zippoちゃんは長くイタリアにいたのよね。
Zippo:23歳から32歳までをイタリアで過ごしました。保因者であるということで、特別に何かを気にしたことはなかったですね。
柿沼:でも実は、Zippoちゃんがイタリアに行くことになった時にお母さんから連絡受けているのよ。「イタリアにも患者会あるか調べておいて」って。それは、娘に何かあったら繋いでってことなんだけど。でも確かに備えておくことも大事だから、イタリアの患者会にはメールしておいたのよ。Zippoちゃんは気にしてなくても、お母様は保因者である娘が海外に住むことを気にしていたと思うわ。遺伝の病気だから、保因者の子を持つ親は自分のことのように子供のことを考えるのかもしれないわね。でも、国にもよるけれど海外もネットワークが確立されていて、患者会もしっかりと機能しているから心配することはないのよ。
イタリア在住時には結婚を意識したお付き合いも。お相手の反応は?
柿沼:イタリアにいる時に、Zippoちゃんは結婚を意識するようなお付き合いをしたのよね。
Zippo: 28歳くらいの時に「もしかしたら、このまま結婚してもいいのかな」というお付き合いがありました。普通は相手に言うべきかどうか迷うところだと思うのですが、私はできるだけ忠実に言いましたね。父の話もしました。海外の方がエイズへの理解は進んでいたので、誤解のないように血友病のことやエイズとの関連性、そして自分への遺伝の可能性とさらに私の子供への遺伝の可能性など私が知っていることは全部話しました。
柿沼:お相手の反応は?
Zippo:その時の相手は私よりもずっと考え方が大人で、私の告白にもさほど動じた様子はなかったですね。たまたまそういう相手だっただけかもしれないですけど。
柿沼:Zippoちゃんの話は特殊な例かもね。
Zippo:私がこんな性格ですし、母もあっけらかんとしているので。でも、もし相手がこのようなことで右往左往してしまうような人だったら、そもそも付き合いも無理かもしれませんね(笑)。血友病の話をした後も何ら変わりなく付き合いは続きましたね。
柿沼:でも、Zippoちゃんのように、お付き合いのプロセスの中で話をするのはとてもいいことだと思う。付き合い始めである必要はないけれど、ある程度付き合いが進んで結婚も意識し始めたら、その時はもう話すタイミングじゃないかしら。将来を踏まえて関係を構築していくのであれば、保因者であると伝えることが大事なことだと思うわ。そして、その時の相手の反応も様々だと思うの。もしかしたら受け入れることができない人もいるかもしれない。そのような時には、自分もどのように対応したら良いかはわからないわよね。私たちは保因者のあらゆる悩みを受けとめるだけの準備はできているので、もしパートナーへの伝達で悩むことがあったら、是非相談してほしいわね。
子供を持つことはできるのか?出産時のリスクは?
Zippo:その時の付き合いは結婚に至らずに、私は32歳の時に帰国したわけですが、今35歳になってあらためていろいろと考えるわけですよ。医療機関にも今になって相談に行き始めたくらいです。現実的に子供を産むとなると向こう数年が限界ですし、もしその時が来たらどうすればいいんだろうって。どこの病院に行けばいいのかとか、それこそ子供を持つこと自体難しいのかな、とか。
柿沼:そうよね。保因者の女性の結婚・出産の悩みは現実的にあまり共有されていないし、情報も圧倒的に不足しているわよね。結論から言うと、結婚も出産も全くもって問題ないのよ。まず、出産する人のリスクとしては出産時の出血が多いという可能性があるけれど、きちんと自分のことを妊娠中から医療機関に伝え理解してもらえば、万が一に備えて対処法など準備しておいてくれるはず。保因者の女性でも、まれに軽度の血友病の症状を持っている場合もあるからね。だから出血のリスクを考えて最初から帝王切開という選択をする方も少なくないかしらね。それよりも考えなくてはならないのは、生まれてくる赤ちゃんのリスク。もし赤ちゃんが男の子で血友病だった場合、正常分娩で頭蓋内出血した場合は本当に危険なのよ。
Zippo:そうそう、それは私も知っていて、出産時の頭蓋内出血だけは避けたいところだと思っていました。
柿沼:血友病として生まれたとしても、その後の生活は思っている以上に負担の少ないものだから、むしろ生活に関してはさほど心配いらないと思うわ。Zippoちゃんのお父様のころに比べたらだいぶ進化しているのよ。製剤投与の注射だって製剤の種類と人によっては一カ月に一回で済むくらい
Zippo:えー!驚きです。
医療現場の現実。あまりにも乏しい正しい理解
最新の医療現場でさえ、血友病保因者の女性に対しての理解があまりにも乏しい
Zippo:でも、今日こうやって柿沼さんに前々から疑問に思っていたことを聞いて解決したわけですが、これまで産婦人科や内科の先生に疑問をぶつけても満足のいく回答をもらったことはなかったです。
柿沼:血友病自体が珍しい病気だし、現実的にそんなにいないからね。そして、いざ血友病の専門医に会おうと思っても専門医を探したり紹介状を書いてもらったり、やたらに長いプロセスを踏む場合もあるから…。自分だけで行うには大変かもしれないわね。
心無い一言で、出産はおろか結婚すらあきらめてしまう人も
Zippo:血友病のことも保因者のことも、正しく理解していないお医者様はたくさんいると思います。実は最近、内科の先生に相談したんですけど「出産はやめたほうがいい」って言われました。びっくりですよね。前々からお世話になっている先生で、最先端の治療などにも積極的な信頼できる方だったのでショックでした。
柿沼:そんなこと言われたの?信じられない。
Zippo:そう。さすがの私も驚きました。
柿沼:Zippoちゃんはそういう性格だから、そういうことを言われたとしても鵜呑みにしないで自分でその後調べたり他に意見を求めたりできるけど、中には「ああ、そうなんだ…」ってあきらめてしまう人がいるのよ。でも、それは絶対にあってはならないことだと思うの。事実と違う情報を信じて自分の人生をあきらめてしまっているわけだから。
最新の正しい知識の普及こそ大事
柿沼:医療従事者は、血友病についても保因者についても、きちんと最新の正し知識を持つべき。昔とは比べ物にならないくらい研究も治療も進んでいるんだから。さっきも言ったけど、製剤投与の注射は一カ月に一回で済む場合もあるし、国にもよるけど海外でも日本と同様の治療を受けることができるから留学や転勤も普通にできる。最近は子供も走り回っても全然平気なので体育も変わらずにできる。血友病ということで生活が不自由になることはほとんどないのよね。そしてこれはまだ研究段階なんだけど、遺伝子治療も近い将来には可能になると思う。それができるようになると数年間製剤投与しないでもいいらしいのよ。
Zippo:進化してる!研究している人がちゃんといるって知っただけで嬉しいです。
「はばたき」はすべての窓口!“繋ぐ”ことが私たちの使命
悩んだ時にどうする?どうやって調べる?
柿沼:でも、Zippoちゃんは私も含めて関係者が周りにたくさんいたから何か悩んだ時でもすぐに相談できるけど、血友病の女性保因者の相談窓口って本当に少ないのが現状。私たち「はばたき」も含めていくつかは存在しているのだけど、あまり知られていないのよね。だから女性保因者が気軽に相談できる窓口があるということを広く認知させていきたいと本当に思っているのよ。「はばたき」は薬害エイズの被害者やそのご家族の支援で知られているけれど、実は血友病の家系女性や保因者にも開かれている団体だという理解を持ってほしいのです。「はばたき」からもリンクを貼っているのだけど、数年前「生きる力を育てましょう」というサイトを立ち上げて、そこで全面的に血友病家系女性・保因者のための情報を発信しているから、まずはそこに訪れてほしい。そして相談してほしいと思ってるのよ。
窓口があるという安心。窓口の先にどのような人たちが待っているのか
Zippo:窓口があるということが広く知られるようになったとしても、いざ相談となるとやっぱり抵抗はあると思うんですよ。窓口の先にどんな人が待っているのかわからないから。だから「この窓口の先にはこんな人たちがいますよ」って具体的な情報があると、相談する側からしてみたら安心だと思います。顔とかも出せたら出してほしい。相談先にはこんな人がいるってイメージがわかると断然電話しやすいですし。
柿沼:相談したいときにすぐにできるってことが重要だと思うの。だって保因者が相談したい時って一刻も早くって感じでしょ。でも仮に医療機関に相談することを選択したとしたら、それこそ紹介状とかいろいろとプロセスがあって、時間がかかってしまう。それって遅すぎじゃない。だから私たちみたいに、正しい情報に基づいたアドバイスができる団体に電話一本で繋がることができるのが理想なのよ。
最初に相談する人によって、人生の描き方が変わってくる
Zippo:最初に誰に相談するかによって、その後の人生の描き方がガラッと変わってくると思います。私のように心無い一言を言われたことによって、結婚や妊娠・出産をあきらめてしまう人はいるかもしれない。そこまではいかなくても、ネガティブなことばかりを言われて保因者であるということに負い目を感じてしまう人もいるでしょう。私には昔から母や柿沼さんが周りにいたから、保因者であることで何かをあきらめたり負い目を感じたりするようなことはなかったけれど、それはたまたまラッキーだっただけで私みたいな環境にいない人たちもたくさんいる。だから、そういう人たちが相談を考えた時にはちゃんとした人に繋がってほしいって思います。
女性保因者のためのネットワークの必要性
柿沼:保因者同士のネットワークがあればいいわよね。悩みをシェアした方が心が軽くなるし、いろいろな考えを知ることで解決できる問題もあるかもしれない。結婚や妊娠・出産を経験した保因者の実例として、参考になる話をどんどん共有していけばいいと思う。保因者同士を繋げていく働きかけも必要かもしれないわね。そのネットワークにZippoちゃんみたいな人が入って発言をすると、状況は明るくなってくると思うの。Zippoちゃんみたいに保因者であることを大ごとと捉えないで、自分の道を自分で切り開いている人の存在は励みになると思うから。ポジティブな連鎖を広めたいわね。
保因者こそ正しい知識を持つべき。そして、自信を持って!
Zippo:医療従事者が血友病の保因者について正しい知識を持つことはもちろん大事だけど、それは私たち保因者についても言えると思います。当事者である私たちが病気についての理解を深めないことには、社会も変わっていかないのですから。昔は間違った理解で偏見の目で見られ、結婚や出産をあきらめていたような女性も多くいたのですが、それは決してあってはならないことです。私たちは自信を持ってアクションを起こし、自分たちからも正しい理解を広めていくことも必要ではないでしょうか。
「はばたき」が窓口に。一人で思い悩む前にまず相談を
柿沼:何度も言うようだけど、本当にまずは相談してほしいのよ。私は確実にいるし、どこにだって飛んでいくから。もちろん私という人間は一人しかいないので、対応できる人数にも限界があるけれど「はばたき」の窓口には他にも何人か相談員がいるので、受け入れ体制はばっちりできていると思いますよ。そして、私たちで解決できないような相談を持ちかけられた場合には、適任者を探して責任をもって繋がせてもらいます。医師や遺伝カウンセラーなど、血友病についての知識が豊富な方はいるのよ。この対談を読んで、はばたきやZippoちゃんの存在を知ってくれただけでも進歩だと思うの。もっと団体のことが広く知られるところになって、血友病の保因者がもっと生きやすい社会になってほしいと思うわ。
Zippo:保因者女性からしてみたら「はばたき」は本当にありがたい存在です。私もこう見えて悩んだり傷ついたりすることもありますが、今日お話しをしてあらためて勇気をもらいました。これからも保因者女性であることをポジティブに受け止め、いろいろなことに挑戦していきたいと思います。
保因者の皆様のお悩みを柿沼がお聞きします。
事務局長の柿沼はこれまで18年間はばたき福祉事業団で、血友病患者や保因者女性の悩み相談を行ってまいりました。
まずは、こちらの動画をご覧ください。
誰に相談していいか分からないとお悩みの方ははばたきまでご連絡ください。
お待ちしております。